手術体位:仰臥位、側臥位、腹臥位、載石位(切石位)、パークベンチ位等
こんにちは、ゴールデンウィーク明けですね。頑張りましょう。体位の基本と各体位に対する呼吸器、循環器への影響、神経圧迫部位とその症状体位固定グッズを載せました。
手術体位の基本
安全で安楽な手術体位とは,①全身の関節が可動域内である。②過度な圧迫,牽引,進展がない。③呼吸・循環・神経系の機能を傷害しない。④意識下であっても長時間耐えられる。⑤十分な術野が確保でき手術がしやすい。⑥安全な麻酔管理ができる,である。
スタッフは手術開始前だけではなく、手術中も手術進行に伴う手術台のローテーションで固定にずれが生じていないか手術に集中している医師の圧迫で患者の体位が崩れていないかなど、適宜観察を行う必要がある。
倫理的配慮として患者が不用意な露出にさらされていないことが大切である。患者が何の掛物もなく裸で寝ているようなことがないように配慮する。麻酔中の患者の気持ちに寄り添い患者の人権を保護し代弁者としての役割を果たすことが必要とされる。
体位変換の及ぼす影響として、四肢の挙上や身体を傾けることで重力の影響を受けた血液は下側に集まり、中枢の血液量が増加する。また、手術が終了した際に、挙上していた下肢を下ろしたりすると、麻酔の作用で血管が拡張した四肢に血流が戻るため、循環血液量が低下する。このように体位変換は循環動態へ影響を及ぼす。体位変換をするときには必ず麻酔科医に声をかけ、協力しながら循環動態に与える影響を最小限にするように観察しながら行う。呼吸についても同様に身体の固定物品や患者の自重で呼吸運動が制限される。
仰臥位
(1) 呼吸器系への影響
腹腔内臓器により横隔膜が押し上げられ、立位に比べて換気量が10%減少する。肺実質の重量が垂直に加わり、背面の肺に無気肺が生じやすくなる。
(2) 循環器系への影響
循環器系に対する影響はほとんどない。
(3) 圧迫部位
後頭部・肩甲骨部・肘関節部・仙骨部・腰部
(4) 神経圧迫と症状
部位 |
症状 |
原因 |
腕神経叢 |
手指感覚異常,運動障害,握力低下,筋力低下,猿手 |
・手台が手術台より低いことによる牽引 ・上肢の外典角度が90度以上 |
橈骨神経 |
下垂手,手関節背屈困難 |
・上肢の抑制帯での圧迫 |
尺骨神経 |
鷲手,第4,5指外側の感覚異常 |
・肘頭部の圧迫 |
総腓骨神経 |
・下肢の抑制帯での圧迫 ・下肢の外旋 |
側臥位
1) 呼吸器系への影響
・肺活量の低下:-10%
・下側の肺が心臓や腹部内臓の圧迫を受けることによる肺容量減少(機能的残気量の低下)
・横隔膜運動の制限
・低位肋骨の側方前方への運動の阻害
下側肺は、上部からは心臓や縦隔内臓器により、横隔膜からは腹部内臓器により、また腋窩下の枕により圧迫されるため上側肺胞と比べて十分に換気できず、ガス交換を行いづらい、肺血流量は、重力の影響により下側のほうが多い。血流が多いにも関わらず換気が少ないため、肺におけるガス交換の効率を悪くさせる。そのため分離肺換気の場合には、手術側の肺が換気されないことにより低酸素血症や、高二酸化炭素血症を引き起こす可能性がある。
開胸時の肺換気量については、以下のような特徴がある。
・閉胸側(下側肺):コンプライアンス*が減少するため、換気量が減少する。(気道内圧 が上がる。)
・開胸側(上側肺):コンプライアンスが上昇するため、換気量は増加する。
*コンプライアンス:呼吸器系(肺・胸郭系)の広がりやすさ
2) 循環器系への影響
・下側になった側の血管圧は上昇する。(影響少)
・右側を下にした腎摘位では静脈還流が減少し、血圧低下を引き起こす。
・肺血流量は、重力の影響により下側のほうが多い。
下側の血管系のほうが上側よりも重力の影響を受けるが、その影響は少ない。開胸下では重力の影響で以下のような特徴がある。
・閉胸側:肺血流量は増加
・開胸側:肺血流量が減少
3) 圧迫部位
頬部,耳介部,肩部,腸骨部,大転子部,膝部,内外果部
4) 神経圧迫と症状
部位 |
症状 |
原因 |
顔面神経 |
表情筋麻痺,口角下垂 |
・頬部の圧迫 ・耳介部の圧迫 |
上腕神経 |
手指感覚異常,運動障害,握力,筋力低下,猿手,頸部過伸展 |
・頸部過伸展 ・上腕の過度の外転・外旋 ・腋窩の圧迫 |
橈骨神経 |
下垂手,手関節背屈困難 |
・上腕の圧迫 |
尺骨神経 |
鷲手 |
・上腕の圧迫 ・腋窩の過伸展 |
腓骨神経 |
・下腿,膝関節部外側の圧 迫 |
腹臥位
1) 呼吸器系への影響
意識下での腹臥位時の肺容量を立位時と比較すると機能的残気量は約-12%で仰臥位や側臥位に比べて減少率は少ない。
加重により胸郭の動きが制限され、腹圧もかかりやすく、横隔膜の運動制限によるガス換気障害が起きやすい。
2) 循環器系への影響
体位固定後の重力の影響は均等となり、循環動態への影響は少ない。
腹圧が上がると血圧も上昇する。
下大静脈や大腿静脈の圧迫により、静脈還流障害、深部静脈血栓症を起こしやすくなる。急激な体位変換を避けるなど体動による影響を最小にする。
3) 圧迫部位
① 骨突出部:前額部,頬部,前胸部,腸骨部,恥骨部,膝部,足背部
② 顔面や上肢の固定方法により:鼻部,耳介部,顎部,肘部,手背部,足趾部
4) 神経圧迫と症状
部位 |
症状 |
原因 |
顔面神経 |
表情筋麻痺,口角下垂 |
・頬部の圧迫 ・耳介部の圧迫 |
迷走神経刺激 |
徐脈 |
・眼周囲圧迫 (眼球圧迫は眼圧上昇による失明の危険がある) |
上腕神経 |
手指感覚異常,運動障害,握力低下,筋力低下,猿手 |
・過度の頭低位 ・上腕の過度の外転・外旋 ・腋窩圧迫 |
橈骨神経 |
下垂手,手関節背屈困難 |
・上腕側方部の圧迫 |
尺骨神経 |
鷲手,第4,5関節外側痺れ,拇指内転筋障害 |
・肘頭部(肘部管)の圧迫 ・肘関節の過屈曲 ・上腕の圧迫 ・腋窩圧迫 |
大腿神経 |
大腿四頭筋麻痺,大腿頭側部や下肢内側部の知覚麻痺 |
・鼠径部圧迫 ・股関節の過度の外転外旋 |
腓骨神経 |
・下腿・膝関節部外側の圧迫 ・足関節の底屈 |
切石位
膝下を支持する砕石架台を使用することや,下肢の左右非対称固定,股関節の過度の屈曲・伸展・外転・内転などによる下肢の神経障害や,長時間の手術においては動脈血流が妨げられることによるコンパートメント症候群*の危険性が高い。
下肢の挙上・屈曲に伴い腹腔臓器が押し上げられ,腹圧が上昇し,横隔膜運動が抑制されるため,換気量が減少する。
下肢の挙上や,手術終了後に下肢を下ろすことにより,血流量の急激な変化が起こり,血圧変動に影響するので,麻酔科医と調整を図りモニターで観察しながら体位を調節する必要がある。
*コンパートメント症候群:下腿全面は骨や筋膜など4つの部屋(コンパートメント)に囲まれている。下肢の灌流圧の低下ならびに再灌流障害によりコンパートメント内の虚血や低酸素性の浮腫および組織内圧の上昇が起こる。そのために、循環不全が起こり筋肉の壊死状態や神経症状を起こした状態のこと。
腹臥位
1)呼吸器系への影響
胸郭運動が三方向(前方・側方・上下)で制限され、無気肺を生じやすい。
高齢患者や肥満患者、肺機能の低下している患者は特に注意が必要で無気肺を起こすと術後の低酸素血症の原因となる。
2)循環器系への影響
腹部大動脈や大腿静脈の圧迫によって静脈還流量と心拍出量が減少し、尿量が減少する。股関節や膝関節に過度な屈曲があると血流が障害され神経障害を引き起こす。
3)圧迫部位
① 鼻部・前額部・耳介部・頬骨部・肩峰部・乳房(女性)・全腸骨稜・陰部(男性)・膝蓋骨部・足趾部
4)神経圧迫と症状
顔面神経麻痺・上眼瞼神経麻痺・外側大腿皮神経麻痺・橈骨神経麻痺・正中神経麻痺・尺骨神経麻痺
ビーチチェア位:肩関節手術
座位:乳房再建術
座位では頭蓋内の静脈洞は陰圧となり、空気側線が起こる危険性が高い。また、心臓が高い位置になるため、静脈還流が妨げられて下肢に浮腫が起きやすい。
パークベンチ位:脳外科後側頭開頭術
基本は側臥位に準ずる。腋窩が圧迫され下になる上肢の循環障害が起きていないことを確認する。
よく使われる手術体位固定グッズ
ソフトナース(クラシエ薬品)
低反発ウレタンフォーム,
温度により固さが変化する。体温で温まると柔らかくなって体にフィットすることで体圧を分散させる
低反発フォーム,
温度感応性が高く、重さを感知して体を積み込むようにぴったりとフィットすることで体圧が分散される。
アクションパッド(アクション・ジャパン)
AKTONドライポリマー,
耐久性,耐熱性,耐薬品性に優れている。
アネスピロー2(センシンメディカル)
ポリウレタンフォーム,
後頭部の接触面の形状,材質に改良がくわえられ後頭部の圧力が分散される。
プロンビュー(メディカルリーダース,瑞穂医科工業)
顔面の凹凸に合わせて目や鼻,口の部分を空洞にした形状。ミラーが付いているため,挿管チューブの屈曲や眼窩の圧迫などの確認が容易である。
マジックベッド;イージーポジション(日光ファインズ工業)
合成樹脂シートの柔軟な袋に直径1~3mmのプラスチックビーズが充填されている。空気を吸引するとプラスチックビーズが互いにかみ合ってマットが硬化する。約24時間はそのままの形状を保つことができる。